指の滑りを良くする為に使われる「指板潤滑剤」。
もっとも有名なのはTONE社の「Finger Ease(=フィンガーイーズ)」で、1963年発売ということですから、もう半世紀もギター奏者の運指を支えてきた功労者です。
スプレータイプの潤滑剤は他のメーカーからも多く出ているようですが、
この市場ではいまだにフィンガーイーズの独壇場です。
楽器に直接吹き付けても影響がない、ということでネックに直接吹き付けて使用する人も多いようです。
「何年も使用していて悪影響を感じる事がないから、安心してそのまま利用している」という愛用者も多い事でしょう。
フィンガーイーズは揮発性の潤滑油なので、吹き付けても無くなってしまうからです。
「長期的に使用すると、木材を硬化させてしまって脆くなってしまう」という話があって
警戒する人も多いようですが、使いすぎなければ大丈夫なようです。
大量使用が原因だと疑われる指板の不具合が何件かありますが、
直接ベッタベタに吹き付ける習慣がなければ問題はないといえるでしょう。
そもそも楽器を破壊するようなスプレーならば、
訴訟社会のアメリカで50年も支持されているはずがない、とも考えられます。
しかしながら、この使用によってシリコンが木材に浸透していきます。
これについてはある程度覚悟しておくべきでしょう。
シリコンを染み込ませた木材は汚れをはじく性質を持ち、実際に建築に使われています。
楽器的にも美しさが保たれるようで結構な事のように思えますが、ローズやエボニー指板にレモンオイルを塗布してもはじかれて染み込んでいかない、ということが起きます。
また、メイプル指板のフレット交換、ボディのリフィニッシュなど、あらためて塗装をする必要のある修理、改造を行う時、塗料がはじかれてしまうことがあります。
そのためはじかれないようにする添加剤を塗料に加えなければならなくなります。
「スプレーなんだから直接吹き付ける為のものでしょ?」と思う方も多いと思いますが、「使いすぎない量を出す」ことがスプレータイプの目的でもあります。
クロスに少量吹き付けて弦に塗る、というのが正しい使い方なのでしょう。
ではなぜ「直接吹き付けてもいい」といわれているかというと、そうやってたくさん使ってくれると、次々と売れるからです。
ちなみに個人的にはGHS社の「Fast Fret(=ファーストフレット)」がお勧めです。
鉄板焼きで鉄板に油を塗る要領で、弦にだけ潤滑剤を塗布する事が出来ます。
しかしコレは物凄く長持ちするものなので、楽器屋の商売としては、あまり嬉しい商品ではありません。