19世紀のアメリカで「トマトは野菜か果物か」という論争が起こったことがあります。
野菜と果物で関税額が違う事から端を発した大問題です。
裁判では「植物学的には果物だが、フルーツポンチに入らないから野菜」という判断が下され、決着がつきました。
ギターにおいてもなかなか決着がつかない問題があります。それは、「保管の際に弦を緩めるかどうか」です。
ショップに陳列されているギターの弦はベロベロに緩められている事が多いようですが、
愛用者の中には緩める事がないという方も緩めるという方も多くいらっしゃいます。
そもそも「ギター」という一言で、例えばアコギで言えばクラシックギターや設計の古いマーチン(Martin)のように、トラスロッドが無いもの、ロッドがあってもトップが単板のものや合板のもの、
ブリッジにビスで補強がされているものされていないもの、弦の太いものや細いもの、エレキギターで言うならメイプルネック、マホガニーネックなどワンピースのものや何枚か貼り合わせたもの、
指板がメイプルのものやローズ、エボニーのもの、色々なボディ材、またホロウ/セミホロウなどの構造というように、余りにも構造にバリエーションがあり、とてもひとくくりにして論ずる事が出来ません。
マテリアルの個体差など勘案したら、気が遠くなりそうです。
「弦を緩めるか緩めないかはケースバイケース」という、一見無責任にも思える意見にも一定の説得力がある訳です。
ただし、アコギのメーカーは何処も一様に、長期保存なら緩めるべきである、という見解のようです。
タカミネ(TAKAMINE)などは「2週間程様子を見て判断」するように説明しています。
しかし、その根拠を明確に論じているところは何処にも見受けられません。
緩める/緩めないに決着がつかない原因は、その根拠が科学的に明らかになっていない、
また明らかにされていないからです。
ユーザーは自分なりのケアをギターに施し、トライ&エラーを重ねる事で自分なりの根拠を構築します。ですから緩める方も緩めない方も、経験に立脚した根拠に基づいているのであって、
科学的とは言えない訳です。因みに筆者は経験上ケースバイケース派寄りの緩めない派です。
ちなみに、「フリーダム(Freedom Custom Guitar Research)」のギターは、緩めてはいけないそうです。
ショップで緩めて陳列していたところネックのコンディションが変わってしまい、リペアのためにメーカーに送ったところ、担当者から注意された、というエピソードを聞いた事があります。
本当は科学的に答えが出ているのだけれど、テーマが深すぎてユーザーの理解が追いつかないのかも知れません。