先に申し上げますと、筆者はヴィンテージ「かぶれ」でございまして、ヴィンテージギターのサウンドこそ至高、と信じて疑っておりません。 とはいえ保有しているヴィンテージは71年のレスポールデラックス一本であり、ヴィンテージオーナーとしては、まだまだひょっ子です。
最近では80年代の楽器までがヴィンテージ扱いをされるところがあります。
しかしヴィンテージかぶれ的には、ヴィンテージサウンドが得られる楽器は70年代初頭までです。
読者の皆様も、機会があれば是非ヴィンテージは何が違うのかというのを体験して欲しいと思います。
一言でヴィンテージサウンドといいますが、新しい楽器と何が違うのかといえば、
ずばり「音の抜け」と「タッチへの敏感さ」に尽きます。 これには「材」と「塗装」が深く関わっています。
本来、ギターには自然乾燥で製材された、「古材化」した木材が使われていました。
自然乾燥には何年も、何十年も時間がかかりますから、どんどん消費していく過程で材の生産が追いつくことはなく、70年代に入ったときにはすっかり使い果たしてしまいました。
それに代わって使用されたのが、ボイラー室などで強制的に乾燥させた木材です。
これは自然乾燥よりもずっと早く乾燥させることができましたが、「古材化」することはありません。
両者は物質的に全く違うのです。
「ヴィンテージギターは材が違う」とうのはこういう理由ですので、単に時間が経過しただけではイイ音にはなりません。
塗装では、ギブソンでは一貫してラッカーが、
フェンダーでは70年代頃からウレタンが採用されていますが、それ以前はラッカーでした。
ラッカーは経年変化で少しずつ硬質になり、また木材に強く張り付く性質があります。
硬くなり、また強く張り付いているからこそ、温度や湿度によって木材が動くのに付いていき、ひび割れを起こします。
この塗装面が楽器の振動を受けて一緒に振動するので、倍音成分を殺すことなくしっかりアウトプットできるようになり、この豊かな倍音成分が「抜け」を生み出します。
ギターの音を良くするために塗装を塗り替える、という手法があるのはこのためです。
ラッカーで塗装されているはずのギブソンのヒスコレ(=ヒストリック・コレクション)までが
リフィニッシュされることがあるのも、決してやりすぎではありません。
ラッカーはケアを誤ると「軟化」してしまいますが、企業努力により軟化せず安定したラッカーが開発されるわけです。
ところがこれは硬くもなりません。
80年代のラッカーの楽器でクラックが入っている物が極めて少ないのはこれが理由です。
ケアの難しい本来のラッカーに塗り替えることで、何年か後には素晴らしい音が出せるようになります。